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「人権教育のための国連10年」兵庫県推進連絡会

〒650-0004 兵庫県神戸市中央区中山手通4丁目10-8

TEL:078-241-2345

『差別はある。でも諦める必要はない〜子どもたちの苦しみ、悲しみに寄り添って〜』
/谷川栄一さん

【講演概要】
■バッチリスタディ教室
23歳の時、部落解放同盟日之出支部の青年部長を引き受け、子どもたちの学習会をやることになりました。コンビニの前にたむろしている子たちに声をかけ、色んな話をしながら「この前のテスト、どうやった?」と聞くと「俺、0点3個!俺は4つ!」。彼らが中学3年生になったばかりの4月でした。「一緒に勉強会やれへんか」と声をかけると、「やりたい!」と言う。それが「バッチリスタディ教室」、略して「バチスタ」の始まりです。
学習会では3つだけルールを決めました。1つは挨拶をしっかりできるようにする。そのためにまず僕らから気持ちのいい挨拶をする。結果1ヶ月もしない内に、子どもたちは自分から挨拶するようになってきました。2つ目は、絶対に叱らない。問題を起こしても叱らず、何があったかしっかり聞こうと決めました。3つ目、教科書や筆記用具を持って帰る。低学力の子どもたちはだいたい学校の机の中においたままにしているのです。
数週間後の小テストで0点が消えました。まず学習会に行くという意思が生まれ、1日あったことを素直に吐き出せる場所があるという安心感から、勉強に対する壁を1つクリアすることができたからではないかと思います。3ヶ月間後、5人の子どもたちの平均点はなんと16点でした。
勉強も大変。足し算や引き算ができない。マンガを読む姿を見るとほとんど飛ばしながら読んでいる。そこで今流行している『ワンピース』というマンガを使って勉強しました。徐々に国語に興味を持ってくれるようになり、国語力が上がると数学の文章問題も分かるようになる。気が付くと、子どもたちの学力は30点を超えていました。
しかしある時、一人の少年が「もう学習会行けへん」と言い出しました。学校の先生に「地元で何の勉強教えてもらってるんねん」と聞かれ、「『ワンピース』読んで勉強してる」と言うと「そんなん誰でもできるやんけ」と言われたとのことでした。すぐ学校に行き、先生と話をしました。「ならあなたがやれよ」と。「『誰にでもできる』ことをやる人が現れたから30点取れるようになった。これをまず喜ぼうよ」と。話し合った結果、その先生はすごく協力してくれるようになり、連携がうまく取れるようになりました。

■人との関わりの中で変わっていく子どもたち
子どもたちがホームレスのテントにロケット花火を向けて打つ事件が起こりました。市のホームレス対策課の課長に来ていただくなどの話し合いを重ねていった結果、子どもたちの提案で年末恒例の「夜回り運動」の時に余ってしまうご飯を食べてもらおうということになりました。3年目にはホームレスのおっちゃんと子どもらが、どこに掘り出し物のテレビが捨ててあったとか情報を交換しています。他にも、「お前ホモか?オカマか?」などという子どもたちの発言が気になる中、性的マイノリティの人と出会い、学習会に行くようになりました。今では私たちの活動に賛同していただき一緒に活動を行っています。子どもたちは人との関わりの中でどんどん学んでいくんです。
学習会をしていた青少年会館が2007年、大阪市の「同和地区青少年会館条例」が廃止され、活動拠点にできなくなりました。その時「この場所をなくさないで」ライブをやりました。200人近くが来てくれたライブを見た子どもたちが数日後、文化祭で部落民宣言と水平社宣言の朗読をしたと聞きました。「今まで部落って恥ずかしいことやと思ってたけど宣言するって大切なことやな、かっこいいなと思った」と。このライブをきっかけに「オト♪スタ!」という活動を始めました。全国に呼んでいただく一方で、地元で年2回のライブをしています。途中から子どもたちが企画運営するようなり、自分たちで助け合いながらライブを作っています。

■メール相談〜助けを求める子どもたち〜
学習会を始めた当初、案内ビラにメールアドレスを書いたら、多くのいたずらメールの一方で、見落とすことのできないメールが入ってくるようになりました。「助けてください」とか、リストカットした写真を送ってくる。多くの相談の背景には人権課題があります。今相談にきている3000人の内、約2000人のマイノリティの子どもたちは、差別を苦に自殺未遂をはかったり、覚せい剤に逃げているという現実を知っていただきたい。
青年部長を引き受ける少し前、僕を唯一助けてくれた先生がガンで亡くなりました。病院で「世の中にはお前と同じように虐待や差別に苦しんでいる子がいる。俺が死んだら代わりにやってくれへんか」と言われました。子どもたちに僕が愛を与えるなんてできるとは思えず「分かった。考えとくわ」と言ってしまいました。その2日後に先生は他界されました。今でも後悔しています。なんであの時「分かった、先生。任しとけ」と嘘でも言えなかったんだろうかと。
先生が他界された2日後に「青年部長なれへんか」と言われ、何かの運命だと思いました。そこから10年、先生がやってきたことをそのままやっているようなところがありますが、まだまだ追いつけない。子どもたちは、本当は大切な人たちに「こんなことがあんねん。助けて」と言いたいんだと思います。でも聞く耳を持たなかったらその声は届きません。しっかりと子どもたちに向き合って聞いてやってほしいと思います。

    ■谷川栄一
(たにかわえいいち)
■NPO法人 JUMP副理事長

     

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