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「人権教育のための国連10年」兵庫県推進連絡会

〒650-0004 兵庫県神戸市中央区中山手通4丁目10-8

TEL:078-241-2345

『ずっと笑顔でいたいから〜豊かで素敵な自分をめざして〜』/今村力さん

【講演概要】

滋賀県彦根市で小学校の教員をしています。28歳で、2歳の子どもと連れ合いと3人で暮らしています。
生まれ育ったのは彦根市広野町、いわゆる被差別部落で、600世帯、1500人程のムラです。小学生の頃、隣保館での学習会で、両親が結婚に反対されたのでおじいちゃん、おばあちゃんと会ったことがないという先輩の話を聞きました。私も母方のおじいちゃんに会ったことがなく、帰って母親に尋ねると、結婚に反対され何も持たずに家を出たと教えてくれました。

中学校に進学して、2年生の頃にはいわゆるヤンキーと言われるようになってしまい、髪の毛を染めたり、ピアスしたり、興味本位でタバコも吸いました。同じようにヤンチャをしていた同級生は10人くらいで、8人が広野の子でした。地元で声をかけてくれる人も減ってくる中で、隣保館で働いていたAさんは、「勉強分からんでもいいから毎日朝から学校行け」と必ず声をかけてくれました。3年生の12月、担任の先生に「行ける高校はない」と言われ、高校に行きたいというより働きたくないという思いで勉強し、なんとか受かることができました。当時10人程いた友達の中で高校に受かったのは2人だけでした。

高校でなかなか仲の良い友達ができない中で、夜に地元の友達と遊ぶことが多くなり、高校を休みがちになり、1年生で自主退学しました。その後、Aさんから勧められてヘルパーの資格を取りました。受講料は自分の貯金で出しました。でも、面接に行っても全部受からず、「やっぱり高校行かなあかんのかな」と思い、定時制高校に行きました。

少し落ち着いた頃にAさんから連絡があり、学童保育教室で指導員をしました。その中で聞いた「俺、おじいちゃん、おばあちゃんと会ったことない」という子どもの話が、部落問題ともう一回出会わせてくれました。それからAさんに勉強会に連れて行ってもらうようになりました。学童保育を続ける中で学校の先生になりたいと思うようになり、奨学金を借りて、アルバイトをしながら2年間短大に通いました。

大学を卒業したころ、ムラの子と関わっていける活動をしたいということで、青年サークル「フェロー」を立ち上げました。6年間続けて昨年解散しましたが、今は新しい形で青年がやっています。3年ほど前には、家で勉強できる環境が全くない子らに勉強する環境を作りたいと、ヤンチャな中学生を集めて勉強会を始めました。まだまだ課題は多く、地域の子どもたちとの関わりをもう一回考える時期にきているのかなと思っています。

4年前に、学童保育教室の指導員を通して知り合った人と結婚しました。幼なじみに結婚の報告に出かけた連れ合いがすぐに帰ってきました。半年ぐらい経ってから話してくれたのですが、「力ちゃん、いい人なん分かるけど、部落の人やで。あんた幸せになれへんで」と言われたそうです。1年ほどして、その幼なじみから「会いたい」と電話がありました。お姉ちゃんが部落の人との結婚を反対されていて、「結婚するんやったら家を出ていきなさい」と言われた。それを見て「私、同じことしたんちゃうの」と、いてもたってもいられなくなった、と。連れ合いと2人で泣きながら話していました。もう1人の幼なじみは、結婚相手の身元調査をして、両親からOKサインが出て結婚したと聞きました。

2年前、母方のおじいさんが亡くなりました。「何で行くんや。わざわざ傷つかんでええやろ」と父親に反対されましたが、お通夜に行きました。でも怖くて一歩が踏み出せず、終わってから入りました。お葬式には時間通りに来ると伝えると、伯母から「明日のお弁当は家族の分しか用意してないから、あなたと母親は帰ってね」と言われ、家族じゃないんやな、と思いました。その伯母の息子に「ありがとう、今日は来てくれて」と言われ、お客じゃないのに何で「ありがとう」と言われるねんと思いました。うちのムラでも結婚に反対されて出てきたという人がいます。スタートはそれでもいいけど、どこかで和解できないか、じゃないと子どもや孫までつらい思いをすると、自分の経験を話しています。

近くを流れる川に広野から渡る橋があります。私が生まれてしばらくしてできた橋です。Aさんに以前、「広野町の解放運動の根本や」と聞いたことがあります。橋を渡って出て行って彦根の人と関われ。その橋を越えて広野町に来てもらう。交流せんと差別なんかなくならんへんぞ、と。それが広野町の先輩が引き継いできた思いなんです。出会えば出会うほど差別は出てくるだろう。でも交流なくして解消はない。Aさんに言われました。「力、差別を憎めよ。人は憎むなよ」。人と出会い、その交流の中で、生まれた所や住んでいる所でつながりをなくしてしまうことはしょうもないことだということが伝えたくて、今も地域や学校で活動しているのかなと思います。ありがとうございました。

    ■今村力
(いまむらりき)
■部落解放同盟滋賀県連合会/広野支部書記長

     

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