【講演概要】
みなさん、本日はこのようにたくさん集まっていただきましてありがとうございます。空席を除けばほぼ満席という状態で(笑)これぐらいの人数の前でお話するのが、親近感も湧いて話しやすいと思っています。
今日は部落問題、同和教育についてお話しようと思っています。今、一言で部落問題と言っても世代によってその差別の形や当事者の意識はすごく変わってきています。そんな中、現在も学校現場では先生方が一生懸命にメッセージを出すけれども、なかなか今の子どもたちには響いてこない。また、若い保護者にも伝わらないというギャップに悩んでおられると思います。大量に新卒の先生が入ってきています。長年、同和教育に熱心に取り組まれていた先輩の先生からの「家庭訪問に行ってこい」というアドバイスも、なぜ家庭訪問しなければならないのかが分からないというような世代間ギャップが大きくなっていると思います。私は同和教育を受けてきました。同和教育がなかったら今の自分はいないと言って良いぐらい、その成果は僕の人生に凝縮されています。それと同時に、「先生、こんな同和教育ならもうやめようや!」と言いたくなる現場も見てきました。今日はみなさんと一緒にこれからの同和教育をどうやって進めていけばよいかを考えていきたいと思います。
■部落問題との出会い方
最近の部落問題の特徴を言うと、部落に住んでいない青年が増えてきています。青年は結婚や就職など、さまざまな機会に出身部落を離れていっています。地域を中心にこれまでの解放運動は一所懸命に取りくまれてきましたが、自分が部落出身だと気づかずに生活している青年も多くいます。
私が自分の出身について知ったのは小学校6年生のときでした。学校では荒れる毎日。とにかく学校、教師が嫌いで大人が信用できない、そんな子どもでした。そんな僕が、中学校で本気で差別をなくそうと考えている1人の教師に出会います。そこから同和教育、解放運動に出会って変わっていきました。
■「サンタ」の教育
みなさんも部落問題との出会いを振り返ってください。出会い方は人によってそれぞれでしょうが、やっぱり最初の出会いが肝心だと思います。しかし、残念ながら多くの人が最初の出会いでマイナスイメージを持ってしまっています。全国各地で取り組まれた意識調査の結果を見ても、今の30歳代以下は学校の授業で知ったという人が多く、40〜50歳代の人は家庭で親から聞いたという人が多いです。若い世代は同和教育を受けてきたので部落問題との出会いがプラスイメージだと思われる人が多いでしょうが、60〜70歳代と同じような「寝た子を起こすな」「自然解消論」「妬み意識」が多くなっています。なぜ、このような結果になるのか?同和教育をやってきたものの、中味が問題であったということです。いわゆる「サンタ」の教育「タテマエ・タテジワ・タニンゴト」だったということです。そこをプラスにもっていくのが、これからの最大の課題だと思っています。
■出会い直すということ
僕が「部落問題との出会いが大事だ」と言えば言うほど、学校の先生は構えてしまいます。でももっと大事なことは、たとえマイナスの出会いであってもプラスになるような場をいっぱい用意すること、「出会い直す」ということです。私も出会いはマイナスイメージでしたが、それをプラスに変えてくれたのは、本気で差別をなくそうと考え僕に関わってくれた教師や、高校生集会で訪れた福岡で出会った識字活動を続けるおばあちゃんたちとの出会いでした。
■今ある差別をなくすために
一昨年に発覚した行政書士による戸籍謄本等不正取得事件にも見るように差別は決してなくなっていません。学校では歴史を詰め込むだけでなく、現在との関係性の中で子どもたちにきちんと同和教育をしてほしいと思います。今ある差別をなくしていくために、私たちに何が出来るのか?子どもたちの心に届くメッセージをみなさんと一緒に考えていきたいと思っています。本日はありがとうございました。
■川口泰司 (かわぐちやすし) ■山口県人権啓発センター |
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