【講演概要】
変形性股関節症ということもあって、よくタクシーに乗る。以前、「近くですけどいいですか」と断って乗ったのに、足が不自由なので降りるのに時間がかかっていると、運転手に「おまえ、こんな近い距離くらいこれからタクシーに乗るな」と言われた。「ちょっと扉をしめてくれますか」と言って、運転手と話をした。ほうっておくと、これから多くの障害者や高齢者を馬鹿にするだろう、と思ったから。
差別やいじめは、他の人の力も借りながら、できるだけ早い段階で、その醜いボールを相手に投げ返さないといけない。言えなかったら、いったん自分が吸い込んで自分が醜くさせられる。そして自分より弱いところにぶつける、差別の悪循環にはまりこむ。
奈良でタクシーに乗ったとき、行きも帰りも同じ会社のタクシーに乗った。とても親切だった。なぜか。一つは、会社が人権学習をしているだろうこと。二つ目。奈良県では毎月11日を「いのちを見つめる日」「人権を考える日」として、学校、行政、企業などで取り組み、道沿いには「差別をなくす学習から差別をなくす行動へ」「毎月11日は人権をたしかめあう日」というのぼりがたっている。意識を持つことで人間が変わる。世論作り、雰囲気づくりが大事。意味はないと言う人もいるが、抑止力になる。
人権教育をやるから学力が下がると言う人がいるが、人権教育とは一人ひとりの子どもを大事にする教育。学力とは広い意味で「生きる力」。「知識・知恵・心」の三つそろってワンセット。もっと言うと「人権・学力・キャリア」、これが同じ方向を向くのが大事。
文部科学省が2008年に出した「人権教育の指導方法等の在り方について[第三次とりまとめ]」では、「人権教育を通じて育てたい資質・能力」として「知識的側面A価値的・態度的側面B技能的側面」が書かれている。私たちは、価値的・態度的側面は一生懸命やってきた。仲間づくり、思いやり、差別の現実を学ぶ。「理屈はいらん」と。できてこなかったのが知識的側面、技能的側面。もっと教えるべきは憲法だったと思う。たとえば憲法24条には、「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と書いてある。死のうとしたり、駆け落ちしたりする必要はまったくない。親がだめだと言ったら、親に「さよなら」と言って、本人同士は結婚したらいい。世界人権宣言第16条にも同じことが書いてある。また、いじめにあったらどこに相談したらいいのか。法的なことも含めてスキルを伝えていかないといけない。
小学校の時の恩師が、今もずっと隣保館にやってくる。ある時、「先生、部落でもないのに、自分の問題でもないのにすいません」と言ったら、初めて真剣に叱られた。「部落の人がいるから部落差別があるんか? 差別をする人がいるから差別があるんやろ。だからこれはぼくの問題なんや」と。部落問題に関して、自分たち部落の人間が当事者だと勘違いしていた。差別をする側、される側で綱引きをするのではなくて、部落差別をなくす側で一本の綱を引っぱったら、みんなが当事者。差別をなくそうとする人は地区外にもいっぱいいると教えられた。
■松村智広 (まつむらともひろ) ■みえ人権教育・啓発研究会代表 |
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