【講演概要】
岸さんはこれまで、社会学者としてさまざまなところで調査をおこなってきた。統計調査ではなく、人に会ってその人生を聞くというやり方を取っている。主なテーマは沖縄で、大阪の被差別部落で聞き取りをすることもある。
講演では、実際のインタビューと語りを示しながら、「沖縄とは何か」を個人の生活のなかから考え直すことの意味や、部落解放運動の中での個々人の語りの大切さについて話した。
岸さんは、「生活史調査は、文字起こしは大変だけれども、誰にでもできて、それほど経費もかからない」「戦後の記憶がどんどん失われていく中で、今残しておくことが大事」「生活史のインタビュー自体が、人と人がつながり、地域のつながりを再生させることにもなる」と話し、参加者に、「もし100年前の地域の人々の生の語りがあったとしたら、すごいと思いませんか。だから、今記録して100年後に残していきましょう」と語りかけた。
岸さんの、具体的でユーモアあふれる話を聴き、参加者からは、学校など自分の現場で地域の聞き書きをやっていきたい、などの感想が寄せられた。
【岸政彦さんの著書紹介】
『断片的なものの社会学』(2015年、朝日出版社)*「紀伊國屋じんぶん大賞2016」受賞
―路上のギター弾き、夜の仕事、元ヤクザ…人の語りを聞くということは、ある人生のなかに入っていくということ。社会学者が実際に出会った「解釈できない出来事」をめぐるエッセイ。
『同化と他者化―戦後沖縄の本土就職者たち』(2013年、ナカニシヤ出版)
復帰前、「祖国」へのあこがれと希望を胸に、本土へ渡った膨大な数の沖縄の若者たち。しかしそれは壮大な「沖縄への帰還」の旅でもあった─。 「もうひとつの復帰運動」としての戦後の大規模な本土移動。なぜ彼らのほとんどは、結局は沖縄に帰ることとなったのか。詳細な聞き取りと資料をもとに、「沖縄的アイデンティティ」、さらにはマイノリティのアイデンティティのあり方を探る。
『街の人生』(2014年、勁草書房)
外国籍のゲイ、ニューハーフ、摂食障害、シングルマザーの風俗嬢、ホームレスが語る、いろんなかたちの人生の記録。
■岸政彦(きしまさひこ) ■龍谷大学社会学部教授 |
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